「岡咲さんのお陰でこんなに良い部屋にめぐりあえました!花柄の壁、可愛い出窓、しかもロフト付き。こういう部屋に住むのが夢だったんです!」

都心から電車で25分と少し利便性は悪いけれど、緑が多く治安も良い街に建つワンルームマンション「グリーンフラワーコーポ」の203号室に渚は顧客である堀内美和子(ほりうちみわこ)と内見に来ていた。

美和子は都内中堅食品会社の受付嬢として勤務している25歳、独身。

少し色素の薄い髪をポニーテールに結び、ハキハキとした口調の明るい人柄は誰もが好感を持つに違いなく、もちろん渚もその例外ではなかった。

「本当に本当に、ありがとうございます!一緒に住んでいた同僚が寿退社で引っ越してしまうので、急遽次に住むところを探さなきゃで・・・。こんなに良い環境で素敵な物件が早くに見つかるなんて思ってもいませんでした。ああ、嬉しいなあ。」

そう言って真新しい室内を見回す美和子を、渚は微笑ましく眺めた。

「堀内さん。部屋と人にも相性があるんですよ?あなたがこの部屋にふさわしい方だから、こういうご縁が巡ってきたんです。この部屋を可愛がってあげてくださいね。」

「はい!」

「ではご契約の説明を、駅前のカフェでお茶でも飲みながらお話してもよろしいでしょうか?もちろん当社の経費で落としますから。」

「ええー・・・そんなに甘えちゃっていいんですか?!」

「いいんですよ。気にしないでください。」

「じゃあ、遠慮なく。」

美和子を先に退室させ、渚はワンルームマンションの部屋の玄関ドアにしっかりと鍵をかけた。