その家はヨーロッパにある大きな洋館のような建物だった。

白い壁には蔦が絡まり、紫色の空にコウモリが飛んでいれば吸血鬼が住んでいそうだ。

ここは何平米あるのだろう?築年数は?どこの不動産会社が管理しているのかしら?

家や不動産を見ると、つい職業柄そんなことを考えてしまう。

扉を開ける奈央の後ろから渚も付いて行った。

「・・・お邪魔しまぁす。」

なんとなく小さな声でそっと挨拶する。

玄関だけでも渚の部屋の何倍もの広さだ。

備え付けのシューズクローゼットには何足の靴が収納されているのだろう?

きっとそのどれもが高級ブランドのものに違いない。

家の中も目を見張るほど広く、どの調度品も高そうなものばかりだった。

壁には有名な現代アートが額縁に飾られ、リビングにはシックでモダンなソファに家具、白で統一されたキッチンも整然としている。

「座って。今、お茶を入れるから。何がいい?コーヒー?紅茶?オレンジジュースや炭酸水もあるよ。」

「あ、私が入れるよ。」

「いいから。僕、こういうの慣れてるんだ。」

「・・・そう?じゃ、遠慮なくご馳走になるね。オレンジジュースをお願いしてもいい?」

渚は用意が一番簡単そうなものをチョイスした。

「オッケー。」

奈央は右手の指でOKサインを作ってみせた。

自分のテリトリーに入った途端敬語からタメ口になった奈央を、しっかりしているようにみえてもまだ小さな子供なのだと改めて思い、渚はその可愛らしさに目を細めた。

渚は革張りの高級ソファにちょこんと座り、その広い空間を眺めた。

モデルルームみたいに綺麗でお洒落な部屋だけれど、生活感がなさすぎて少し寒々しい気もする。

もしこの家を売るとしたらいくらになるだろうか、と目算していると2階から誰かが降りてくる足音が聞こえてきて、渚はとっさに身構えた。