「お気に召しましたか?ここは僕の母のお気に入りの場所でした。こんな気持ちの良い日にはいつもここでくつろいでました。」

ローズガーデンのそばにある銀色のベンチを奈央は指さした。

過去形か・・・やっぱり奈央君にはお母さんがいないのね。

「家に入りましょうか。美味しいケーキがあるんです。僕の保護者が作ってくれているはずです。あの人はお菓子作りが得意ですから。」

「保護者・・・?あの人・・・?」

随分他人行儀な言い方だな、と首を傾げていると

「僕の叔父です。といっても血のつながりはありませんが。僕、あの人のことあまり好きではないんです。はっきり言うと嫌いです。押しつけがましくて正論しか言わなくて、ほんとむかつく奴です。」

と奈央は苦い薬を飲んだときのような顔をした。

そんな堅苦しい叔父さんと顔を合わせたくないなあ・・・と渚は玄関の前で及び腰になった。

「じゃ、叔父さんは今日もいらっしゃるの?」

「いや・・・今日あいつはデートらしいから遅くなると思います。あんなやつとデートする女の顔が見てみたいです。あいつ顔だけはいいから、きっと相手の女もあいつの見た目にしか興味がないつまらない女です・・・さあ渚、気兼ねせず入ってください。」

「そ、そうなの・・・?」

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い・・・ってやつ?

まあイヤな奴ってどこにでもいるもんね。

でも不在で良かった・・・

渚はホッと胸をなで下ろした。