荘厳なオルガンの旋律が教会内に響いていた。

祭壇の前で純白のウエディングドレスを着たマーメイドのような渚と、光沢のあるグレーのタキシードを着た湊が向かい合っている。

渚はいままで見たこともないような幸せそうな笑顔で、頬をバラ色に染めながら湊をみつめていた。

湊も愛おしげに美しい渚をみつめ、誇らしそうな顔をしている。

神父の柔らかい声が愛の誓いを問いかけ、それにふたりが「誓います」と答える。

指輪の交換が終わると、湊は渚のベールをそっと上げる。

そしてふたりは顔を近づけ、熱い口づけを交わした。

その様子を教会の一番前の席に座っている奈央が、半べそ顔で眺めていた。

初恋の相手である渚が、叔父である湊と結ばれる瞬間を見せつけられているのだ。

不機嫌にならないはずがない。

もちろん渚が本当の家族になることは嬉しいけれど、やっぱり複雑な思いは隠せない。

なんだよ、いつも喧嘩ばかりしていたくせに。

湊のやつ、僕の渚をいつの間にか自分のものにしちゃってさ。

でも・・・こうなる予感はあったんだ。

だってふたりの言い争いは、息がぴったりだった。

それってタマシイが共鳴しあってるってことでしょ?

湊のことだって本当は嫌ってなんかいなかった。

心の奥では、湊が僕を大切に思ってくれていること、わかってた。

でも、あの頃の僕は湊に反抗することでしか、お母さんと会えない淋しさを表現できなかったんだ。

そんな僕が変われたのは、渚の存在があったからだ。

渚が湊と僕の仲直りのきっかけをくれたんだ。

お母さんと一緒に暮らせるようになったのだって、きっと渚のお陰なんだ。

だから・・・渚が幸せならそれでいい。

おめでとう渚。

おめでとう湊。

そうふたりを心で祝い、そっと初恋に別れを告げた奈央は、晴れやかな気持ちでふたりに大きな拍手を贈った。

式が終わり、賑やかなガーデンパーティが始まった。

奈央がテーブルに置かれたオレンジジュースを取ろうとすると、そばでピンクのワンピースを着たツインテールの女の子が派手に転んだ。

奈央はすぐに駆け寄り、ぽろりと涙をこぼしながら起き上がろうとする女の子の手を取った。

「大丈夫?」

「うん。」

女の子の顔はまだ幼く、どこか渚に似ていて、控えめにいっても天使のように可愛らしかった。

「こんにちは。僕、奈央っていいます。君は?」

「助けてくれてありがとう。私は穂波。よろしくね。」

そしてふたりは微笑みあった。

教会の鐘がゴーンゴーンと鳴り響く。

そうだよ。

初恋は実らないっていうじゃないか。

奈央は早くも二回目の恋に落ちていた。








fin