大きく深呼吸をして気持ちを整え、渚は湊に他人行儀な声で問いかけた。

「お客様。今日はどのようなご相談ですか?」

「ふたりで住む部屋を検討している。優良物件を探してくれ。」

「・・・かしこまりました。」

まさか、もう堀内さんと同棲するの?

早すぎるとは思うけれどふたりとも婚活中であり、付き合うとなったら結婚前提の同棲をしても全然おかしくない。

私の気持ちを知っているくせに、どうして湊はこんな残酷なことをするの?と渚は泣きたくなった。

「どのようなご条件でお探しですか?」

動揺で声が震えないように、渚はつとめて営業モードで対応することにした。

「そうだな・・・。金に糸目はつけない。」

「左様でございますか。」

「優秀な営業社員である岡咲さんの意見を参考にして決めたいと思っている。」

「そう言って頂けて光栄です。けれどお客様のご要望が明確でないと、ご案内も難しいかと存じます。」

「岡咲さん。あんただったらどんな部屋に住みたいか?」

「・・・は?」

「岡咲さんのおすすめの物件を知りたい。」

「・・・そうですね。」

渚はタブレットを操作し、ある物件情報を液晶画面に表示し、湊に向けてすっと置いた。

ここまで話が進んでいるのならば、もう私の出る幕はない・・・

渚は、湊と美和子にぴったりな物件を、精一杯おすすめすることにした。