明くる日。

グレーのカーデガンを羽織った渚は、一礼をして賃貸契約を終えた客を見送った。

昨夜、渚は家に帰ってひとりきりで思い切り泣いた。

でもそれももう終わり・・・未練たらしく引き摺るよりこれからは未来をみつめて生きて行こう。

渚はスッキリとした気持ちで、心機一転仕事に取り組むことを誓った。

自席へ戻ろうと自動ドアに背を向けた瞬間、誰かに右腕を強く掴まれた。

思わず振り向いた渚の前に、怒ったような顔をした湊が立っていた。

ふたりは無言のままみつめあった。

そんな渚と湊を迷惑そうに睨んだ男性客が、大きな咳払いをひとつして店を出ていった。

渚は何を言ったらいいかわからずパニックに陥った。

けれどいつまでもこんなところでふたりして立っていたら、仕事の邪魔になる。

渚は毅然とした声で湊に話しかけた。

「今日は何の用?今、仕事中なんだけど。」

「口の利き方を慎め。俺は客だ。」

湊の言葉に渚は眉をひそめた。

「客?」

「ああ。お前が窓口対応しろ。」

「・・・わかった。」

渚は窓口カウンターに座り、湊と向き合った。