「ごめんねえ、美々ちゃん。この人酔うといつもこうなのよ。許してやって。」

カウンターの向こうから、華がにこやかに笑いながら渚の頭を引っぱたいた。

「痛っ!何すんのよ華。」

「可愛い後輩をいじめるんじゃないよ。美々ちゃんはうちの店の大事なお客様なんだから。」

「はあ?私だって大事なお客様の一人でしょーが。それに、いじめてないわよ。可愛がってんのよ。ねえ美々?」

「はいっ!渚先輩にはいつも仕事を助けてもらったり、セクハラ上司から守ってもらったり、お世話になってます。」

「ならいいけど。おい渚、それ以上飲み過ぎないでよ。あんたの介抱大変なんだから。」

「いいから華。同じのお代わり!」

「はいはい。しばしお待ちを。まったく・・・言ってるそばからこれだもんねえ。」

華はそう言ってそっとふたりの間にサービスのつくね焼きを置くと、また厨房へ戻っていった。

そんな華の姿を目で追いながら美々は羨望の眼差しを向けた。

「華さん・・・素敵ですよね。店主でありながら夫を支える良き妻、そして優しいママ・・・理想です。」

華は3年前に結婚し、今は一歳児の母親だ。

周りの手を借りながら、母親業と居酒屋「はな」のオーナー業を上手くこなしている。

「それはそうよ・・・。華は私の自慢の友達なんだから。」

渚はまるで自分が褒められたかのように、鼻高々に胸を張った。