「ごめんなさい!」

渚はぎゅっと目をつむり唇を噛みしめながら、頭を下げた。

「宗像君はすごくいい男だよ。私にはもったいないくらい。そんな宗像君に、身に余る言葉を言ってもらえて本当に嬉しい。だけど・・・まだ私の中にある恋が終わっていない。」

「でも・・・渚先輩、失恋したって・・・」

「うん。した。けど、まだ彼に本当の自分の気持ちを伝えていない。ちゃんと玉砕してそれから前に進みたいの。だから宗像君と付き合うことは出来ない。」

渚の言葉に和樹は困ったように笑った。

「もっと(ずる)く立ち回ればいいのに・・・渚先輩ってほんとに真っ直ぐですね。」

「そんなんじゃないよ。ただ馬鹿なだけ。」

「俺、二番目でもいいです。渚先輩を待ってちゃ駄目ですか?」

和樹の(すが)るような目を見ながらも、渚は小さく首を振った。

「それは申し訳なさすぎる。宗像君は宗像君を一番に考えてくれる女の子と結ばれるべきだと思う。」

「・・・そうですか。俺じゃ駄目なんですね。」

和樹は小さくため息をつき、悲しげに目を伏せた。

「・・・・・・。」

「あーあ。こんな優良物件逃すなんて、渚先輩、きっと後悔しますよ?」

「うん。きっとそうだと思う。ていうかすでに後悔してる。」

「・・・その言葉が聞けただけで満足です。」

和樹はそう言うと、少し潤んだ瞳で渚をみつめた。

「宗像君・・・・・・。」

「でも俺、言いたいこと言えてスッキリしました。今日はせっかくだから、楽しみましょう!弁当食い終わったら、またアトラクションに行きませんか?」

「・・・うん。宗像君・・・ありがとう。」

渚は和樹の屈託の無い笑顔を眺めながら、湊に対する想いとはまた別の種類の痛みに耐えていた。