「きゃあああああ!!」

急斜面を竜の形をした車体が猛スピードで落ちていく。

きつくベルトを締めた渚の身体に、冷たい水しぶきがかかった。

この遊園地一番人気のアトラクションである「スプラッシュドラゴン」に乗った渚は、久しぶりに大きな声を出して叫んだ。

きっとこの周りの大音響が、私の叫び声をかき消してくれるはず。

渚はそう思いながら、自分の心の内を思いっきり空へ飛ばした。

「湊のバカヤロー!!」

「あんたなんか、すぐに忘れてやるからー!!」

けれどそんなことを叫んでも空しいばかりで、ちっとも気持ちが晴れることはなかった。

そもそも湊に堀内さんを紹介したのは自分なのだ。

文句を言う資格なんてない・・・

渚はラストに思いっきり声を張り上げた。

「湊!!幸せになってねー!!絶対だよーー!!」

しかし隣に座る和樹の耳は、渚の声をぜんぶ拾っていた。

渚先輩・・・今日は全てを吐き出して胸のつかえを下ろしてください・・・

そう和樹は心でつぶやいた。

アトラクションが終わり、渚は後ろを歩く和樹の方へ振り向き、大きな声で笑いながら言った。

「これ、初めて乗ったけど、こんなに楽しいなんて知らなかった!」

「俺も初めて乗りました。友達がこのアトラクションを教えてくれて、ずっと乗りたいって思ってたんです。」

「そうなんだ。」

「あ、渚先輩。水滴が・・・」

「え?」

和樹はすばやくポケットからハンカチを取り出し、渚の頬に残った水滴を拭いた。

柔軟剤なのか、良い匂いがする和樹と急接近した渚は、恥ずかしさに思わず後ずさった。