「よし。じゃあ乾杯するか。」

「うん。」

「『紫陽花と少年』文庫化の祝いと・・・」

「それと?」

「俺たちの未来に。」

その言葉に渚はドキッとした。

ほら・・・あれよね・・・お互いの仕事が上手くいくようにとか、そういう意味よね。

渚は動揺する自分を隠すように、ことさら陽気に振る舞った。

「では、『紫陽花と少年』の文庫化を祝って、乾杯!!」

渚は湊のジョッキに自分のジョッキを派手にぶつけた。

注文した焼き鳥とおでんが届くと、ふたりはしばしそれらを堪能した。

お腹が満たされ、渚は2杯目のビールを二人分頼むと、湊に尋ねた。

「奈央君と美里さんの様子はどう?」

「そうだな・・・まだちょっとぎくしゃくしてるのは否めないが、少しづつ距離は縮まっているみたいだ。昨日の夜もふたり一緒にテレビを観て笑ってたよ。」

「そう。・・・よかった。」

渚は胸を撫で下ろした。

「余計なことしちゃったかと思って心配したけど。」

「そんなわけないだろ?」

湊は背筋を正し、渚に向き合うと大きく頭を下げた。

「渚には本当に感謝してる。ありがとう。」

「なあに?改まって。頭上げてよ。」

「お前がいてくれて・・・お前と出会えて本当に良かった。」

「私は何もしてないわ。湊のふたりを想う気持ちが伝わったのよ。」

「俺の前では謙遜するな。素直に俺の気持ちを受け取れ。」

「わかりました。どういたしまして。」

渚と湊は静かに微笑み合った。