「なんだかご機嫌ね?」

「そういうお前は浮かない顔だな。また仕事で悩んでるのか?」

湊が心配そうに渚を見た。

「ううん。仕事は絶好調よ。」

「ならいいが・・・。なにかあったらなんでも俺に話せよ?」

「ん・・・ありがと。」

渚は小さく微笑んだ。

「ところで・・・なにかいいことあったの?」

渚が首を傾げると、湊は嬉しそうに言った。

「実はな、木之内惣の『紫陽花と少年』が文庫化することになった。」

「え?ほんと?!」

「ああ。幻の処女作の文庫化だ。これを機に木之内惣の小説を読む読者も増える、と俺は確信している。」

「そうね。私もそう思う!」

「このこと、渚に一番に報告したかった。毎日遅くまで残業して勝ち取った企画だからな。」

「それで最近忙しかったのね。」

「ああ。誰よりも渚に喜んで欲しかった。文庫本が出来あがったら、真っ先にお前に見せるから楽しみに待ってろ。」

「嬉しい!ありがとう。」

どうして今になって、そんなに優しい言葉をたくさんくれるの?

いつもの口が悪い湊になら、いくらでも憎まれ口を叩けるのに・・・。