教室に入ると雲の話題で持ちきりになっていた。
「おはよ~美音。見た?雲が消えてるってやつ。」
「おはよう。璃子。見た見た。信じられないよね〜。」
「ゆらゆら!見たかお前!」
中学からの友人である静浦宥人が、話しかけてくる。
「朝っぱらからうるせえなあ!分かっとるわ!」
「はぁ…なんだ知っとったんかよ。」
「そりゃそうだわ。逆にこんなにみんながうるさいのに知らわけないやん?」
「まあそりゃそっか。それよりさ……」
田中がこっちに来いとでも言うように手招きしてコソコソ話し始めた。
「お前今度の土曜日一緒にダブルデートせん?」
「は?」
何を言い出すのかと思えば…この世界がすごいことになっているといいのにこいつは……、そもそも
「俺はまだ告白してねぇんだよ。」
と言うと、
「え?もしかしてお前まだ美音に告白してねえの?」
と田中が驚いた。
音のしない時間が訪れる。
「……。」
「早く告白すりゃいいやんか〜。」
「うっせえな。言われなくともやるけど…幼馴染だと色々難しいんだよ。」
「……そうか。悪かったな。」
「………。」
またもやし~んという擬音語がこの世で一番似合うであろう沈黙が訪れた。
「ゆら〜ちょっと来て〜!」
美音の呼ぶ声がした。
「はいはーい。今行くからちょい待ってな。んじゃあ俺美音の方行ってくるわ。」
「んじゃなまた後で。」
「おう、あと今日幸生と美音と一緒に通話するんだけど参加する?」
「え?まじで?!するする!」
「了解。んじゃ。」
俺が離れると宥人はポツリと
「頑張れよ。」
といったが送られた俺の耳には届かなかった。

 部活も終わってやっと帰ろうとすると、まさかの雨が降ってた。雲がないからずっと晴れるだろうと思っていたのに。
すると、後ろから急に声が聞こえた。
「雨が降らないと農業とかはどうするんだろうと思ってたけどまさかまさか晴れたまま雨が降るとはね。」
「おわっ!美音か!急に話しかけてくんなよ。」
「何?化け物を見るような目で見てきて。」
「うっ……。」
別に今回はただびっくりしただけなのだが……。
ただ…今までに何回か美音のことを鬼呼ばわりしたときは、当たり前のように俺はこてんぱんにやられたのだ。
「…いいえ?」
「なら良いけど。」
「美音傘持ってる?」
「持ってない。」
「持ってないのか〜…」
「それよりいつから始める?通話。」
「そうだなー。9時くらいでいいんじゃないか?。」
「了解!こういうとき誰も塾行ってなくてよかった〜ってなるよね〜。」
「それな〜。」
雨がザアザア音を立てて降っている。
「なんか雨強くなってね?」
「……どうする?ゆら。」
「宥人と璃子はまだ部活かな?」
あわよくばその二人に入れてもらおう。
「ゆら…。」
美音が何やら校門前を指さして固まってた。
美音の指さす方向を見てみると相合傘をしていい雰囲気のお二人がいた。
「詰んだな……。」
「詰んだね…。」
仕方ない
「美音、走るぞ!」
そう言うと俺は美音の手を取り走り出した。
「え?ちょっとまっ……」
美音の反対も聞かずに俺は一気に雨宿りできる場所までダッシュした。無論、美音が転ばないように合わせて動いた。
しばらくして雨宿りできそうなところがあったのでそこを使って休憩した。
「ハアハア…なんで急に走り出すのよ!」
「いや~なんというか学校の玄関だと周りの視線が気になってさ…。」
「じゃあなんで遠回りしたのよ。」
そう…俺はいつも通ってる登下校の道ではなく、遠回りになる裏ルートを使ったのだ。
「登下校の道だとめちゃくちゃ見られるやん?」
「あ、たしかにそれはやだわ。」
「やろ?やけんいったやん〜。」
「まあいいこともあったしね。」
そう言うと美音は空に向かって指さした。
その先にはきれいな虹が映っていた。