突然だが皆さんは雲がなくなった世界を想像することができるだろうか?……察しの良い方はなんとなくわかっただろう。そう、この世界では雲がなくなってしまった。これはそんな雲のない世界の僕らの青春の物語。

 「ゆら〜はやくはやく!」
いつも通り玄関から美音の声が聞こえる。
はぁ…全く、思春期男子の家に来てわざわざ起こしに来るなんて、一体どういう神経をしてるのやら。とりあえず部屋から顔を出して言う。
「あのなぁ、そんなに急いだってまだ間に合うだろ?」
「そう言って昨日私に起こしてもらって急ぎながら支度をしてギリギリ学校に間に合ったのは一体全体どこの誰でしょう?」
「うっ…」
痛いところをつきやがって!
「ほらほら〜早くしないと昨日の二の舞いだよ〜?」
「わかったわかった!急ぐから。」
「よろしい!」
この俺、海月ゆらと空霧美音は親同士が仲が良くて、昔からよく一緒に遊んでいた。いわゆる幼なじみというやつだ。
「行ってきまーす。」
「行ってきまーす」
 俺達は2人とも同じ高校に通っている。
だけども、実は小さい頃はもうひとりいて、その吉弘幸生を含め3人で遊んでた。
しかし吉弘は、中学2年に上がる段階でここ、長崎から静岡に転校してしまった。
 「いや~しかし幸生も同じ高校になれたらよかったのにな〜」
「流石にむりだろ。きつくね?高校のために向こうからこっち来るの。」
「えー?幸生なら大丈夫っしょ」
「せっかくだから今日また3人で通話しよーや」
「おけ!ゆらの部屋集合ね」
「いやリモートで良くね?」
彼女は俺のことを一体どういうふうに思っているのだろうか。
「やだ!決定ね!」
そう言って美音は走り出してしまった。
「おい待てよ!」
つられて俺も走り出す。
学校が歩ける距離にあって良かったと常々思う。
もし自転車必須だったら運動神経があまりない俺はこの細い道を走れていなかっただろう。
信号が赤になった。
「げっ!」
「よし追いついた~!」
やっとのことで美音に追いつくことができた。
「くそ〜!信号が変わらなかったら追いつかれなかったのに!」
そう言って俺達は暇つぶしにスマホを眺め始めた。
「ほんとここの信号長いよね〜」
「それな。俺達小学校のころどうやってこの長い信号を暇つぶししてたんだろ。」
「え?3人で指スマじゃない?」
「あーあったあった!懐かしいな」
そう言ってスマホに目を戻そうとすると美音がスマホを見せてきた。
「ゆら…これ見て。」
「ん?なになに?…え?雲がなくなった?」