「夏目さん、おはよ」
「お、おはよう、宇佐美くん」
「……うん」
始業のチャイムが鳴る十分前に教室に現れた宇佐美くんは、朝練をしてきたのだろう。彼はバスケ部に所属している。
隣に座った宇佐美くんから、ふわりと制汗剤特有の爽やかな香りが漂ってきて、ほんの少しだけドキッとしてしまった。
席に着いた宇佐美くんは頬杖をついて、何故か無表情で私を見つめている。
その視線から逃れるように、私は不自然にならないように顔を左方向に向けて、窓の外を見る振りをした。
席替えで宇佐美くんの隣の席になってから、今日で三日目。
宇佐美くんはこんな風に、何を考えているのか分からない無表情でジーッと私の顔を見つめてくる。
それはこんな風に、登校してきてすぐの時間帯や授業の合間だけに限らず、授業中にも視線を感じることが多々あって……何か言いたいことがあるならはっきり言ってくれればいいのに、宇佐美くんは言葉を発することもない。
だから私は、宇佐美くんが何をしたいのか、何を思って私を見ているのか全く分からなくて、ここ数日でドッと疲れたような心地になっていた。