「っ、」


驚いた私は、最後の段差を上りきる前に、足を滑らせてしまう。


「っ、夏目さん!」


私の斜め後ろにいた蓮見くんが、焦った顔をして、私に手を伸ばす。だけどその手は届かない。


周りの景色全てが、スローモーションのように見える。

このまま落下することを悟った私は、感じる痛みを想像して、ぎゅっと目を閉じた。


――だけど、いつまで経っても、身体に痛みはない。

代わりに、ふわりとあたたかな温もりに包まれる感覚。


「夏目さん、大丈夫?」


心配そうな表情で私を見下ろしているのは、宇佐美くんだった。

――どうやら私は、宇佐美くんに抱きかかえられているらしい。