「……夏目さんの心臓の音、すごく速い」


私を抱きしめたままの宇佐美くんが、クルリと向きを変えて私の正面に回ってくる。

真顔で指摘された言葉に、私の鼓動はますます速く、大きくなっていく。


「それは、だって……男の子と抱き合ったことなんてないし、緊張しちゃうよ」

「……」


宇佐美くんは黙ったまま、何を考えているのか読めない表情で、私をジーッと見下ろしてくる。

……宇佐美くんは、恥ずかしいとか思わないのかな?

気まずい沈黙に耐え切れなくなった私は、話題を変えるため、咄嗟に頭に思い浮かんだ話を口にする。


「そ、そういえば、週末のバスケ部の練習試合、つっこちゃんと一緒に観に行くね!」

「……本当に?」

「うん、何か差し入れも持っていくつもりだから、希望があれば教えてほしいな。試合、頑張ってね」


斜め上にある顔を見上げて笑いかければ――宇佐美くんは突然、無言で顔を近づけてきた。

咄嗟に手のひらを滑り込ませれば、柔らかな唇が手の甲に触れる。