「それに俺も、諦める気なんてないしね」

「……大賀美くんにも、そんな風に思う相手がいるの?」

「うん、いるよ。すっごく鈍感な子みたいだから、中々手ごわいんだけどさ」


フッと口許を緩めて、大賀美くんが笑う。優しい顔だ。

きっと、その相手のことを考えているんだろうな。でも、大賀美くんが好きな子って、一体どんな子なんだろう。


考えていたその時、制服のポケットに入れている私のスマホが着信を知らせた。


「あ、お母さんからだ。ごめんね、もう帰らないと」


慌てて立ち上がって、大賀美くんにバイバイをする。


「小夜ちゃん、またね」

「うん、またね。ジュースもありがとう」


大賀美くんに背を向けて歩きながら、お母さんからの電話に出る。いつもより帰りが遅いから、心配を掛けちゃったみたい。



そして、そんな私の後ろ姿を見ながら、


「ライバルに塩送るとか、俺ってバカだよなぁ。……でもまぁ、好きな子には、ずっと笑っててほしいもんな」


なんてつぶやいていた大賀美くんの声は、私には届かなかった。