「夏目さん」


カップを手にしたまま立ち尽くしていれば、蓮見くんがやってきた。


「いつも差し入れありがとう」

「ううん。蓮見くんも、練習お疲れさま」


持っていたレモネードを蓮見くんに差し出せば、「ありがとう」と受け取ってくれた。

ゴクゴクと飲み干すたびに上下に動く喉仏をぼうっと見ていれば、カップの中身を空にした蓮見くんが、気遣わしげな顔をしていることに気づいた。


「……夏目さん。今、遥翔に声を掛けようとしてたんじゃないの?」

「え?」

「まだ休憩時間もあるし、行っておいでよ」

「……ううん、大丈夫だよ。ありがとう、蓮見くん」


私の視線の先に気づいていたらしい蓮見くんが、心配してくれていることが伝わってくる。

だけどあの二人の間に入っていくなんて、とてもできそうにない。それに、せっかく楽しそうにおしゃべりしているのに、邪魔しちゃったら悪いもんね。


「……そういえば、聞いてよ夏目さん。この前遊びに行った時にみかんをくれたお祖母さんに、今朝偶然会ってさ。また大量にみかんをもらっちゃったんだ。よかったら夏目さんももらってくれないかな?」


蓮見くんはわざと空気を換えるような明るい声で、別の話題を振ってくれた。私はそんな蓮見くんの優しさに甘えて、休憩時間が終わるまでの残り数分間を、蓮見くんとおしゃべりしてやり過ごした。


だから、そんな私と蓮見くんの姿を宇佐美くんがジッと見つめていたことに――私は気づかなかったんだ。