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「レモネードの差し入れだよ~!」


部長の美和子先輩の声に、体育館の(すみ)の方で休んでいた男バス部員たちがワッと集まってくる。

けれどその輪には加わることなく、座り続けている男の子が一人いる。


(宇佐美くん、レモネードいらないのかな……)


今までの私だったら、声を掛けるどころか、なるべく視界に入らないように、宇佐美くんの姿を見つけては逃げるように身を縮こませていた。

だけど今は……宇佐美くんと、話したい。勇気を出して、自分から声を掛けたい。


今思えばこの二か月、いつだって声を掛けてくれるのは宇佐美くんの方からだった。私は逃げてばかりで、普通に話せるようになっても、宇佐美くんが話しかけてくれるのを待っているばかりだったように思う。


カップに注がれたレモネードを一つ手にして、宇佐美くんのもとへ足を踏み出す。

――だけど、一足遅かったみたいだ。


「宇佐美くん、はい! レモネードだよ!」

「……ありがとう」


料理部の隣のクラスの女の子が、すでに宇佐美くんのもとに向かっていった。

宇佐美くんは差し出されたレモネードを受け取り、それを見た女の子が嬉しそうに笑っている姿が目に映る。


私は踏み出しかけていた足を、そっと元の位置に戻した。