「あ、あの……宇佐美くん」


小声で呼びかければ、宇佐美くんはその切れ長の瞳を真っ直ぐ私に向けた。

いつも避けてばかりいたから、こうして真正面から宇佐美くんの整った顔を見るのは、何だか緊張してしまう。


「その……教科書見せてくれて、ありがとう」

「……ん。どーいたしまして」


私のお礼の言葉に、宇佐美くんは驚いた表情でぱちりと瞳を瞬いて――けれど次の瞬間にはそっと目を細めて、柔らかに微笑んだ。

僅かに開いた窓から入ってくるそよ風に、宇佐美くんの黒髪がサラリと揺れている。


――宇佐美くんの笑った顔、はじめて見たかもしれない。


私はそんな宇佐美くんの表情に、思わず釘付けになってしまった。けれど直ぐに我に返って、慌てて視線を逸らした。


――私、どうしちゃったんだろう。何だか顔が熱い。心臓がトクトクと、いつもよりずっと速く鼓動を打っている。


その後の私は授業に全然集中できなくて、昨年から同じクラスで仲良しの月子ちゃん――私はつっこちゃんと呼んでいる――にお願いして、ノートを見せてもらう羽目になってしまった。