「……これ」


宇佐美くんだった。

机をくっつけてくれた宇佐美くんが、私の机との境目に国語の教科書を置いて、私に見えるようにしてくれる。


「え、どうして……」

「どうしてって……夏目さん、教科書忘れたんだろ?」


戸惑っている間に、気づけば順番は私まで回ってきていたみたいだ。


「それじゃあ次、夏目。読んでくれ」

「は、はい」


どこから読めばいいのかと文字を目で追って探していれば、宇佐美くんのスラリとした長い人差し指が、十行目の文字の先頭箇所をトントンと指し示して教えてくれる。


「ふ、…冬はつとめて。雪の降りたるは、言ふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持てわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりて、わろし」

「うん。よし、いいぞ」


頷いた先生は、こちらに背を向けて要点を板書し始める。

私は無事に読み終えたことに小さく安堵の息を吐き出してから、チラリと右隣に視線を向けた。

宇佐美くんは眠たそうに小さな欠伸を漏らしながら、黒板をぼうっと見つめている。