「それじゃあ、授業始めるぞ。教科書の二十三ページを開けー」


クラス全員の出欠を取り終えた先生が、教科書とチョークを片手に黒板に向き合う。


一時間目は国語の授業だ。今日の教科書読みは、日付け的に考えて、私も掛けられそうな気がする。

佐藤先生は日付と同じ出席番号の人を当てて、順番に後ろの席に当てていくというスタイルが定番となっているからだ。


国語の教科書の指定されたページを開いた私は、そこでようやく、自分が大失態を犯していることに気づいた。


――これ、国語じゃなくて日本史の教科書だ……! どうしよう、間違えて持ってきちゃったんだ。


一人で慌てふためく私に気づくはずもない佐藤先生は、黒板に“枕草子”とタイトルを書き終えると、私の三つ前の席に座る男の子を当てた。

男の子は指定されたページの文章をスラスラと読んでいる。


バクバクと嫌な音を立てている心臓をおさえながら、ここまできたら、当てられたタイミングで、正直に教科書を忘れたことを告げた方がいいだろうと覚悟を決めて、その時を待つことにする。

先生には、何でもっと早く言わないんだって軽く注意されるかもしれないけど……仕方ないよね。


ソワソワと判決を言い渡される前の被告人にでもなったような気持ちで順番を待っていれば――右隣で、机がカタンと小さな音を立てた。