「中川くん、分かりそうにない?」
「見たことない俺が分かるわけないでしょ?」

 さすがに場所までは聞いてなかったみたいで、彼は私の問いに困ったような顔をした。
 頼りすぎはよくない。

「そうだよね。しらみつぶししかないかな」

 言いながら庭を見回す。
 うちの庭は意外と広い。大型犬が走り回れるくらいだ。
 その上、植木鉢とかも結構置かれてるから、この中から探し出すのは難易度が高い。
 
 どうして私、忘れてしまったんだろう……。

 どこから手をつければいいのか、と動けないでいると視界の端で中川くんが動いたのが分かった。

「中川くん?」
「手伝うよ、見つかるまで。勝手にそこにあったスコップ借りてるけどいいよな?」
「う、うん。ありがとう」

 いつの間にか園芸用のスコップを手に持っていて、容赦なく角から掘っていく中川くん。
 でも、そうしないと見つからない。

 私も予備のスコップで木の下を掘ってみる。
 どのくらいの深さまで掘ってたかも覚えてない。
 ザクザクと固めの土を掘って、何もなくて埋める、を繰り返した。

 でも、どこを掘り返してもタイムカプセルは出て来ない。
 端のほうは全部確認した。
 
 掘ってて何か当たるものがあると思ったら、木の根っこだったり、誰が埋めたのか割れたお皿の破片が出てきたり、全然私たちのタイムカプセルは見つからない。

 このまま出て来なかったら、どうしよう……。

 私がそう思った瞬間、ガキンッという金属と金属がぶつかり合う音がした。
 
「あった!」

 中川くんの声に振り向く。
 それは庭の中央にあった。

「あ……」

 土の中から現れたピンク色のクマのクッキー缶。
 その小さな缶を見て、私の中に記憶が戻ってくる。

 どうして、忘れてしまったのか。
 いま、その理由を理解した。
 それは私にとって嫌な記憶になってしまったからだと思う。

 この中には自分の夢について書いた手紙がある。
 でも、私はお姉ちゃんに勝てなくて小説を書くという夢を諦めた。
 だから、このタイムカプセルのことは忘れたかったんだ。
 そして、望み通り忘れ去った。

 手が震える。

「Aちゃん、大丈夫?」

 私の様子に気が付いて、中川くんが尋ねてくる。