「あの……、お姉ちゃん、自殺じゃなかったよ……」
『え?』

 中川くん、私と同じ反応してる。
 そうなるよね。だって

「自殺してなかった……っ」

 信じたかったんだもの。
 お姉ちゃんは自殺なんかしないって。

 涙をぐっと我慢して、ちゃんと説明しなきゃと思う。

「小さい子……、っ溺れてて……、それを……」
『助けたのか……』
「……そ、う……たすけたの……」

 馬鹿みたいって言えればよかったのに。 
お姉ちゃん、ヒーローだった。やっぱりすごかった。

『仲里は、すごいな……。誰にでも出来ることじゃない』
「うん……」

 中川くんにそう言ってもらえて、私はちょっと救われた。
 そうだよね、って心から思えるから。

「……っ」

 涙が止まらなくて、何も話せなくて、このまま電話を繋げたままにしていていいのかな、と思ったときだった。

『なあ、Aちゃん、タイムカプセル埋めたの覚えてる?』

 中川くんが優しい声でそう言った。
 いま、電話の向こうで中川くんはどんな顔をしてるんだろう。

「……タイムカプセル?」

 なんだっけ? とぼそりとつぶやく。

『仲里が前に話してたのを思い出したんだよ、Aちゃんと埋めたってうれしそうに話してた。いつ気付くかなって』

 いつ気付くかな?

「それ……!」

 私はハッとなった。
 思い出したんだ、お姉ちゃんとの思い出を。

「中川くん、いまからうち来れる?」

 涙を拭って、電話の向こう側に問いかける。
 泣いてる場合じゃない。

『いまから? 俺、家知らないんだけど』

 中川くんが戸惑っているのが分かる。
 それでも、もう止まれない。

「住所教えるから、来て」