◆ ◆ ◆

 どうしてもお姉ちゃんのことを伝えたい人がいた。
 私と苦しみを分け合った人。

 部屋に戻って、私はお姉ちゃんの机の上にあったスマホを手に取った。

 お母さんとお父さんは未だにお姉ちゃんのスマホを解約できずにいる。
これはお姉ちゃんが川に飛び込んだとき鞄に入ってたから奇跡的に水没を免れていた。
充電も絶え間なくされている。
 つまり、まだ生きているのだ。

 急いでロックを解除して電話帳から名前を探す。

「見つけた」

 番号をタップして、スマホを耳にあてる。
 数回コールが続いて、それが聞こえなくなった。
 向こう側で応答ボタンをタップしたのだ。

『……仲里?』

 戸惑う声が聞こえる。
 電話に出た彼はきっと驚いたことだろう。
 もうかかってくることのない人間から電話が来たのだから。

「中川くん?」

 落ち着いて呼びかける。
 気を抜いたら、声が震えそうだ。

『もしかして、Aちゃん?』

 まだ戸惑ってる声が聞こえる。
 でも、私だって分かってくれた。

「そう……、聞いて、あのね……」

 ダメだ、唇が震える。
 私は耐えるようにぎゅっと右手の拳を握った。