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 数ヶ月後、とある金曜日、私は放課後にお姉ちゃんの通っていた中学校に来た。
 巻いた髪を軽く指先でいじりながら、校門で人を待つ。

 約束はしていない。それでも……

「Aちゃん?」

 気付いてくれると思ってた。

「中川くん」

 もう颯馬くんとは呼ばない。
 次に呼ぶときは、私の心が彼を認めたとき。
 私と彼は名前は知ってるけど、これが初対面ってことにする。

「はじめまして」
「は、じめまして?」

 私の言葉に戸惑った顔をする中川くん。
 いまも変わらず顔がいい。
 
「賞、獲ったよ。佳作だけど」

 一方的に賞の結果の載った雑誌とお姉ちゃんの分厚いノートを彼に押しつけて、私は一歩後ろに下がった。そして

「これで終わり、私たちお別れだね。じゃあね」

 あっさりとさよならをする。

 私は約束を果たした。もう二度と会うことはない。
 胸に残ったこの気持ちが変わることはないけど、許されるはずがないんだ。
 中川くんはお姉ちゃんのことが好きだったんだから。
 それに、きっとお姉ちゃんも……。