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 家に帰ってから、私は浴衣も脱がないで小説の最後の章を書いた。

『明日、後悔した君は私とさよならをする』

 話は中学二年生の男の子が事故で記憶喪失になったところからはじまる。
 主人公の女の子は彼のことが嫌いだった。
 理由は主人公が彼に意地悪をされていたから。
 でも、記憶を失った彼は主人公のことが好きだと告白してくる。
 主人公は記憶を忘れた彼のことを好都合だと思い、いつもの意地悪の仕返しをしようと付き合うことにした。
 でも、次第に彼の優しさに惹かれてしまい、仕返しをしようとした自分に罪悪感を抱く。
 そんな中、男の子も記憶を取り戻して、自分が主人公のことが好きだから意地悪をしていたことを思い出す。
 男の子はそんなことをしていたことに後悔した。
 だから、主人公にさよならを告げる。彼女も後悔してそれを受け入れた。
 本当は好き同士なのに、お別れをしてしまう切ない青春の話。

「できた……」

 私は鉛筆を置いて、分厚いノートをパタンと閉じた。

 最初はお姉ちゃんのために書いていたはずなのに、いつのまにか自分のために書くようになってた。書きたいから書いていた。

 正直、楽しかった。

 でも、もう私は書かない。
 これは私だけで書いたものではないから。
 私だけでは無理だった。
 これを清書して、どこかの賞に応募して、それで私の物語は終わり……。