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「Aちゃん、お帰り。外に出てたのね。大丈夫?」

 家に帰ると、キッチンに立ったお母さんは心配そうな顔をしていた。

「うん。お母さん、私、明日から学校に行く」

 お姉ちゃんのノートを胸に抱えながらお母さんに宣言する。
 もう一ヶ月以上学校には行ってなかったけど、私の中で心は決まっていた。

「え? 学校に? 無理しなくていいのよ?」

 そんなに早く立ち直ることなんてできないって、お母さんは思ってくれてるのかもしれない。お父さんもそうだ。
 正直、立ち直れたわけじゃない。

「ううん、大丈夫」

 学校に行かないとお姉ちゃんに会えないだけ。

「それじゃあ、私、部屋に戻るから」

 詳しくは話せないから、私はそこで会話を切って、自分の部屋に戻った。
 それからお姉ちゃんの書きかけのノートを開く。

 小説のタイトルは『明日、後悔した君は私とさよならをする』だった。

 これからどうなっていくのか、とかあらすじがまったく書かれていなくて、結構中盤まで書かれていた。

 話は主人公が嫌いだった男の子が事故で記憶喪失になったところからはじまる。
 どうして、男の子のことを嫌いだったのか、それは主人公が彼に意地悪をされていたからだった。
 でも、記憶を失った彼は主人公のことが好きだと告白してくる。
 それで、主人公もなぜだか彼と付き合うことにする。

 記憶がないってことは知り合ったことがないって認識で、それなのに好きになる意味が分からない。

 私は読み終えた、その書きかけの小説をそっと閉じた。