「外で偶然会ってしまったのは想定外で、焦って咄嗟に冷たくしてしまった」
「……うん」

 消えたわけじゃなかったんだね……。
 別人になったわけでもなかった。

「俺は嘘ばっかり吐いた。本当は役者目指してて、それで演技使って仲里を演じて……、Aちゃんとの思い出は全部仲里に聞いたものだし……、日に日に増してく罪悪感に耐えきれなくなりそうだった」
「……うん」

 颯馬くん、無理してくれてたんだ。
 それでも、私はそれに救われてた。

「すごく後悔してる、ごめん」

 そう言って、颯馬くんは頭を深く下げた。
 
 ――後悔……。

「お別れのときに言う約束だったよな、あの小説を自分で書けない理由、それは俺が仲里じゃないから。仲里はあの小説の完成を望んでると思った。……本当にごめん」

 顔を上げて、彼が私を見る。
 ああ、颯馬くんが好きだなと思った。

 明日、後悔した君は私とさよならをする。
 それが今日だ。
 主人公の恋はいまここで終わる。

「……好き」

 静かに私はその言葉を口にした。
 心臓がすごくうるさい。
 バクバク、ドキドキ……。
 告白って、こんなに緊張するものなんだ。

「え?」

 颯馬くんは……、ううん、中川くんは驚いたような顔をした。
 でもね、私もお姉ちゃんはあの小説の完成を望んでいた気がしたんだ。

「好きだよ。だから、フってよ中川くん」

 私は笑って、そう言った。
 本当に、本当に好きだった。
 でも、これでいいんだ。

「Aちゃん……」

 颯馬くんがじっと私を見て、何かを理解したように私に近付いた。
 それから、私のことを正面からぎゅっと抱きしめて……