カランカラン、と足下で鳴る下駄。
 花火が打ち上がって、辺りが赤や緑に染まった。

 どうして気付かなかったんだろう。
 そんなの最初からあり得ないって分かってたはずなのに。
 死んだ人間が戻ってくるなんて、そんなことないって。
 幽霊でも会いたい、その気持ちが私を惑わせた。
 そう思えたら、どんなにいいか。

 最低なのは私だ。
 中川くんもきっと、苦しい思いをしたんだ。
 私とかお父さんとかお母さんの他に、苦しんでる人がいてもおかしくない。
 幽霊でもいいからお姉ちゃんに会いたいって、望むほどに。

「……っ」

 もう走れなくなって、それでもよろよろと足を進めて

「Aちゃん!」

 颯馬くんと最初に出会った橋の上で後ろから名前を呼ばれる。
 足を止めて、後ろを振り向くと同じように息を切らした颯馬くんがそこには居た。
 夜空に黄色の大きな花が咲く。

「俺は……!」

 大きく叫んで、それから、颯馬くんは私との距離を縮めた。

「俺は……、すごく卑怯だったと思う。最低だ。でも、Aちゃんのことを仲里の身代わりにしたかったわけじゃないんだ」

 目の前に来たとき、颯馬くんは悲しさと苦しさを混ぜた表情をしていた。

「颯馬くん……」

 その顔を見て、泣きそうになる。

「橋でAちゃんの顔を見たら、咄嗟に嘘をついてしまったんだ。勝手だけど、仲里が目的としていたことが達成されたら、静かに消えようと思ってた。俺の中から仲里が消えたことにして」

 私、きっとあのとき、生きていないような顔をしていた。
 だから、颯馬くんは私を守るために嘘を吐くことにしてくれたのかも。

「でも、気付いたらAちゃんとのつながりも仲里とのつながりも消したくないと思ってしまっていた」
「……うん」

 私も一緒だよ。
 颯馬くんを巻き込んだのはお姉ちゃんだ。颯馬くんは悪くないんだ。