「どういうこと?」

 君は一体、誰なの?
 生身で普通に存在してるってことだよね?

 疑いの目を向けることをやめられない。
 そんな中、颯馬くんは静かに口を開いた。

「……俺は中川颯馬、仲里と付き合ってた、と思う。いや、俺はそう思ってた」

 ゆっくりと言葉を選ぶように続ける。
 お姉ちゃんに付き合っていた人がいるなんて、知らなかった。
 家でお姉ちゃんはそんな話一言もしてなかったし、なんの変化も見せなかったから。

「でも、仲里は俺のことを下の名前で呼んでくれていなかった。彼女にとって俺はそういう存在じゃなかったのかもしれない」

 悲しそうな表情の颯馬くん。
 その話しぶりから、感情が颯馬くんからお姉ちゃんへの一方通行だったように思える。

「颯馬くんから告白したの?」

「いや、告白は仲里からだった。告白されて小説のネタのためにフってほしいって頼まれたんだけど、最期までフレなかった」

 どきっと胸が鳴る。
 お姉ちゃん、最初、私と同じことを考えていたんだ。
 告白してフラれれば、小説の主人公の感情が書けるようになるって。

 でも、なんで?
 それでも、どうして?

「なんでお姉ちゃんの振りなんてしたの?」
「それは……」

 答えられないのは何故?
 
「お姉ちゃんの小説を完成させて、って、あれはお姉ちゃんに頼まれたわけでもないんでしょう?」
「そうだ……」

 うつむいた颯馬くんはそう答えた。
 私はずっと嘘を吐かれていたんだ……。

「じゃあ、なんで私を騙してたの! 最低!」

 心底、腹が立って、私は神社の階段を走って降りた。
 そのまま、家までの道を走る。