「なに?」

 答えながら横を見ても視線は合わない。

「顔がいい人の世界って、どんな風に見えてるの?」

 前を向いたまま仲里は俺に問いかけた。

「それって、どういう意味?」

 仲里も俺の顔がいいと思ってくれてるってこと?
 こうやって話してるとき、全然見てくれないけど。

「周りからキャーキャー言われて月に何度も告白される人の世界って、どんな感じなのかと思って」
「それ、本当に文章書いてる人の聞き方なの?」

 はは、と笑ってしまう。
 ややこしくて物書きらしくない聞き方だ。

「そうだよ? わざとしてるんだもの。分からなかった?」

 仲里も笑ってる。ほんと意地悪だ。
 まだこっち見てくれないし。

「分かってるよ。モテるやつの世界がどう見えてるかってことでしょう?」

 自分で口にして、本当かよ? と思いながら考えてみる。

 イメチェンして中学に入って、急に周りが騒ぎ始めた。
 顔がどうのとか、そんなので。
 最初のうちはなんで俺の顔なんて、と思ったし、どうでもよかった。
 いままでは地味でいじめられてきたわけだし。
 でも、そのうち身長も伸びて、さらに周りの女子から気にされることが多くなった。
 そりゃ、人に必要とされてるみたいで、気分は良かった。
 嫌われているより良かったから。

「みんなと何も変わらないよ。周りが光って見えるわけでもないし」

 考えた末に、そう答える。

 そのうち大人になって、気にされなくなるんだ。いまは同い年の中で、少し気にされてるだけ。

「そう」

 あっさりそう答えて、仲里は納得したのだと思った。

「でも、私からは別世界の人に見えるんだよね。こんな地味なやつといつまでもつるんでないで、中川くんは自分の世界に帰りな」

 やっと視線が合ったのに、言われたのはそんな言葉。 

 ただ、突き放された、というより優しさを感じた。
 まるで怪我をした鳥類を保護して、森に返すみたいな、そんな優しさ。
 生きる世界が違う、みたいな、そんな……。