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 仲里は一人でいることが多かったが、実は性格は明るくて、ちょっとめんどうくさがりなだけだった。だから、その性格を前面に出せば、誰とでも仲良くできるはずなのにしていなかっただけ。

 俺と付き合って、話し始めた日にはクラスの全員がびっくりしていた。
 仲里って、あんなにしゃべるんだ、あんな風に笑うことってあるんだって。
 でも、俺はそれを知られるのがなんとなく嫌だった。
 自分だけが知っていたかった。
 本当に俺は彼女に心を奪われているのだと確信した。

「はい」

 放課後、図書館でまた待ち合わせをした日、席につくなり仲里は俺に一冊の本を手渡してきた。

「なにこれ?」

 忘れていた俺は本をまじまじと眺めてしまった。
 表を見たり、裏を見たり。

「おすすめの本」

 仲里のその言葉を聞いて、思い出す。

「持ってきてくれたんだ? サンキュー」

 正直、本当に持ってきてくれるとは思っていなかった。
 彼女は俺のことに興味はないと思っていたからだ。
 すごく嬉しかった。

『君だけが許してくれた僕』

 主人公は中三の男で、とある事件から学校の人間全員から悪いやつだって誤解されて、避けられていた。ただ、一人の女のクラスメイトだけは主人公を分かってくれていて、彼女の前だけは許されるんだけど、最後、彼女は病気で亡くなってしまう。主人公は彼女にもらった勇気でこの先を生きていく、という話。

 俺は家でこの本を読んで号泣した。
 最初は結構ページがあって読み終われるはずなんてないと思っていたのに、気が付いたら、没頭して、読み終わっていた。

 何日も何回も読み返しているうちに返すのを忘れるほどに。