◆ ◆ ◆
「あと三十分早く生まれてたら私がお姉ちゃんだったのに、お姉ちゃんだけお姉ちゃんでずるいよ、って妹が変なところで怒ったからさ、私、じゃあ、少女AのAちゃんって呼ぼうって言ったの。Aはアルファベットで一番目なんだよって」
「それで妹は納得したの?」
「機嫌は直ったよ? 一日だけのはずだったんだけど、私が気に入っちゃって。それから両親も含めてみんなでAちゃんって呼んでる」
仲里はいつも妹の、Aちゃんの話をしていた。
俺に話すこと、それしかないのかよってくらい。
俺は仲里に俺のことを好きになってほしかったから、その話をいつも真剣に聞いていた。記憶力は良いほうで、だから、Aちゃんとの思い出話は全部覚えていた。
まるで自分のものみたいに。
俺はいままで人と付き合うことなんて考えていなかった。
恋愛なんて面倒くさい、そう思っていた。
でも、仲里は他の告白してくる女子と違っていた。
彼女にだけは、好かれたかった。
「中川くん、夢はないの?」
ある放課後、図書館の隅の席で仲里に聞かれた。
心臓がドクンと強く脈打った気がして、どう答えようかと悩む。
夢がないわけじゃなかった。
ただ、俺は……。
「俺、役者になりたくて、演劇部に入ってたんだけど、やっぱりダメだなって思って。こんなところにいても俺は役者になれない。いや、たぶん、俺自体がダメと思ってあきらめた」
学校の弱小演劇部にいても、何の意味もないと思った。
それでいって、個人で何をしたらいいかも分からなかったし、そう思ってる自分もダメだと思った。
そこにいるだけで、どうにかなる世界じゃないってことも分かっていた。
「なら、オーディションとか受ければいいじゃん。顔面はいいんだから、もったいない」
はっきりと仲里は言った。
顔面だけって、と思って俺は苦笑いを浮かべる。
「あと三十分早く生まれてたら私がお姉ちゃんだったのに、お姉ちゃんだけお姉ちゃんでずるいよ、って妹が変なところで怒ったからさ、私、じゃあ、少女AのAちゃんって呼ぼうって言ったの。Aはアルファベットで一番目なんだよって」
「それで妹は納得したの?」
「機嫌は直ったよ? 一日だけのはずだったんだけど、私が気に入っちゃって。それから両親も含めてみんなでAちゃんって呼んでる」
仲里はいつも妹の、Aちゃんの話をしていた。
俺に話すこと、それしかないのかよってくらい。
俺は仲里に俺のことを好きになってほしかったから、その話をいつも真剣に聞いていた。記憶力は良いほうで、だから、Aちゃんとの思い出話は全部覚えていた。
まるで自分のものみたいに。
俺はいままで人と付き合うことなんて考えていなかった。
恋愛なんて面倒くさい、そう思っていた。
でも、仲里は他の告白してくる女子と違っていた。
彼女にだけは、好かれたかった。
「中川くん、夢はないの?」
ある放課後、図書館の隅の席で仲里に聞かれた。
心臓がドクンと強く脈打った気がして、どう答えようかと悩む。
夢がないわけじゃなかった。
ただ、俺は……。
「俺、役者になりたくて、演劇部に入ってたんだけど、やっぱりダメだなって思って。こんなところにいても俺は役者になれない。いや、たぶん、俺自体がダメと思ってあきらめた」
学校の弱小演劇部にいても、何の意味もないと思った。
それでいって、個人で何をしたらいいかも分からなかったし、そう思ってる自分もダメだと思った。
そこにいるだけで、どうにかなる世界じゃないってことも分かっていた。
「なら、オーディションとか受ければいいじゃん。顔面はいいんだから、もったいない」
はっきりと仲里は言った。
顔面だけって、と思って俺は苦笑いを浮かべる。