「だって、中川くんは一年生の頃からいろんな人に告白されてて全部断ってるじゃん。私はフラれたかったの」

 仲里、他人のことに少しは興味あったんだ、とこれを聞いて思った。
 俺がいろんな女の子から告白されて断ってるなんて、学校中のみんなが知ってることだとは思うが、仲里が知ってるのは意外だった。

「なんでフラれたいの?」

 ここまで来たら細かいところまで聞きたい。
 仲里が何を考えているのか。

「フラれたときの気持ちが知りたいから」

 あっさりと彼女はそう答えた。
 ここまで言われてもよく分からない。

「なんのために?」
「小説のために」

 即答されたけど、これは読むほうじゃないよな? と思う。

「小説書いてんの? どんな話?」
「青春でもあって、恋愛でもある話」

 これも即答。
 でも、これだけじゃ納得出来ないな。

「もうちょっとヒントくれない?」
「主人公は男の子と付き合ってて、最後はフラれる切ない話。だから、フってほしい。お願い」

 両手を合わせて拝むような感じでお願いされる。
 人にフってほしいってお願いする人間を初めて見た。
 ここまでされると逆に意地でもフリたくなくなる。

「“絶対に”フラないよ」

 絶対に、という部分を強調したその言い方はちょっと意地悪っぽかったかもしれない。

「分かった。じゃあ、他の人に告白する」

 一瞬、仲里は眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をしたあと、そう言った。

「ダメだよ、もう俺と付き合ってるんだから。他のやつに告白したら、それ浮気」

 なにを焦ってるのか、俺は気が付いたらそんなことを言っていた。