「わたあめ」
「はいはい。小さいときからAちゃんはわたあめが好きだよな」

 私の力ない声を聞き取って、颯馬くんが笑う。

「何色?」
「ピンク」

 颯馬くんは私の返答を聞いて、黙って頷いた。
 それから

「ピンクの一つください」
「はいよー」

 わたあめの出店に近付いて、店主のおじさんに注文してくれた。
 割り箸にクルクルと巻かれていく雲みたいなピンクのわたあめ。
 それはすぐにできあがって、おじさんの手元から颯馬くんに手渡され、私のもとへやってきた。

「落とすなよ? 小さいとき、地面に落としたやつ、洗えば汚れが落ちるっていって水道で洗ったら溶けて消えちゃって、Aちゃん号泣したんだから」
「あれはお姉ちゃんが……」

 やってみようって言ったから。

 時折、こういう会話でお姉ちゃんの存在を感じる。
 怒ってふくらませた私の頬は自然としぼんでいった。

 去年の夏は風邪を引いて、祭りも花火大会も行けなかった。
 あのとき、ちゃんと行けてれば、きっと新しい思い出を作れたはずだったのに。

「楽しもう」

 わたがしをじっと見て固まった私に、颯馬くんは一言だけ言った。
 私は返事ができなくて、でも、彼はそんな私を連れていろんな出店を回ってくれた。
 買ったものは全部私に一番に味見をさせてくれて、疲れたと思う前にベンチで休憩させてくれて……私を大事にしてくれてるって感じる。
 好きが溢れていく。もう優しくしないでほしい。

「花火見えるところに行こうか」

 そう言われて、お寺の裏手にある神社まで階段を上った。
 今日は"あの川"じゃないほうの川から花火が上がる。
 颯馬くんが言うには、ここはあまり人が知らない穴場らしく、実際、人が少なかった。

「な?」
 
 その笑顔に色々考えてくれてたんだろうな、と思う。

 もうすぐで花火の打ち上げがはじまるというときだった。