夏が来た。夏が来てしまった。
 考える時間がほしくて、私は勉強を理由に颯馬くんと会う頻度を減らした。
 彼は嫌な顔もしなかったし、ダメとも言わなかった。
 あれ以来、死神も現れていないし、現状は安定している。
 そう思ったのに、颯馬くんは私と夏祭りに行く約束を結ばせた。

 指切りをした小指は変わらず温かくて、消えてしまうなんて思えなかった。

「そんな顔すんな」

 その声にハッとなる。隣を歩く颯馬くんの声だ。

 夏祭り当日になって、私はオレンジ色の浴衣を着て、同じ色の髪飾りで髪をまとめた。
 颯馬くんは灰色の浴衣がとても似合っている。
 モデルさんみたいだ。
 今日も女の子たちが彼のことを何度も振り返る。

「私、いま、どんな顔してる?」
「この世が終わりそうな顔」

 私が静かな声で尋ねると颯馬くんはふっと笑った。
 彼が冗談めかすのは私を安心させるためだと思う。

「手、つないでくれる?」
「いいよ」

 優しく返事をして颯馬くんは私の手を握った。
 心躍るシチュエーションなのに、私の中でドキドキと怖さが戦ってる。

「Aちゃん、なに食べようか?」

 ざわめきの中、颯馬くんの声が聞こえた。
 煌びやかなお寺の境内を歩いて、色々な出店の横を過ぎていく。