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「Aちゃん、泣いてるの?」

 映画を見終わって場内が明るくなったとき、颯馬くんが私にそう言った。
 見られたくなかったけど、隠せるわけもなかった。
 私は現在進行形で泣いている。
 
 本を読んだときは人の感情なんて全然分からなかった。
 でも、いまなら小説に出てくる登場人物の感情が分かる。
 主人公の葛藤とか、恋心とか、怖さ、その他全部。

「ごめん、行こ」

 ハンカチで涙を拭きながら、私は椅子から立ち上がった。

 あの小説を映像として見られたのは、とてもよかったと思う。
 “消える側”の颯馬くんは、映画を見てどう思ったんだろう……。

 そう思って、颯馬くんのほうを見ると、彼の目が少しだけ赤くなっている気がした。

 ――もしかして、泣いてた?

「Aちゃん、お昼何食べる?」

 普通の顔して、颯馬くんが優しく笑う。
 泣いてたの? なんて聞けなかった。

「オムライスかな」

 なんとも思ってない感じで、私はハンカチをバッグに仕舞いながら言った。
 いまの私はメイク崩れを気にしていればいいんだ。
 深いことを考えたら、自分が苦しくなるだけ。

 そう思っていたのに、嫌でも考えさせられることが起こった。