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 次の日、私と颯馬くんは地元の駅から三つ隣の駅で待ち合わせをした。

これには理由があって、颯馬くんが貸してくれた『君だけが許してくれた僕』が映画化されたから、映画館に見に行こうということになったのだ。

「映像化されたら、どんな感じになってるんだろうな」

 駅を出て、隣を歩く颯馬くんはいつもと変わらない。
 同い年くらいの女の子たちにきゃーきゃー言われて、何度も振り返られて、目立ってた。
 だからかもしれない。

「君、かっこいいね。芸能界とか興味ない?」

 映画館はもう目前だというのに、颯馬くんが芸能事務所のスカウトに捕まった。
 颯馬くんは断っていたけれど、名刺を渡されて、スカウトマンから離れたあとも暫くそれを見ていた。

「やってみたら?」

 興味があるのだと思って、私は彼にそう言った。
 颯馬くんだったら、きっと人気になれる。

「いずれ消えるのに?」

 颯馬くんは、消えるという言葉を躊躇わなくなってきた。
 私に慣れさせようとしているんだと思う。
 人間は慣れる。
 慣れたくないのに。

「まあ、考えてみるよ」

 私が何も言えなくなると、颯馬くんは名刺を無造作にシャツの胸ポケットに入れた。

「映画はじまる。行こう」

 急ぐように手を繋がれてドキリとする。
 今日、私はフラれるのかもしれない。