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 この日が来るまで地獄みたいだった。

 今日は火曜日、颯馬くんと四日ぶりに会う日だ。
 日曜日の颯馬くんとのことを会った日と数えるなら二日ぶりだけど、会ってみないと分からない。

「Aちゃん」

 いつもの図書館の前で颯馬くんは私を待っていた。
 私の姿を見つけた瞬間に名前を呼んでくれてほっとする。
 次会ったとき、また颯馬くんが私のことを忘れてしまっていたらって不安だった。

「颯馬くん、また思い出話して……!」

 泣きそうになるのを我慢して、私は彼にすがりついた。

「どうしたの? Aちゃん」

 颯馬くんは私を見て、驚いたようだった。
 この颯馬くんはこの前の颯馬くんとは違う。
 あの日のことを覚えてない。

「お願いだから、なんでもいいの。覚えてること話して」

 強く腕を掴んで、懇願する。

「えっと、小さい頃、公園の近くに一人で暮らしてるおじいさんがいて、知らない人にはついていっちゃダメって言われてたけど、二人でそのおじいさんところに行って、缶ビールの形した水鉄砲で遊んだよね」

 少し戸惑った様子で颯馬くんはそう語った。

「そう、お姉ちゃんがそれもらっちゃうから、家で隠すの大変で……」

 良かった。私と同じ記憶を持ってる。まだ消えてない。
 そこにお姉ちゃんはいる。

「どうしたの?」
「ううん、なんでもないの」

 心配そうに顔を覗き込まれて、私は静かに首を横に振った。

 いまはまだ大丈夫。
 でも、消えかけてる気がする。