なんの特徴もない住宅街を歩いていたら、私服を着た颯馬くんが歩いていて、そこの角を曲がっていくのが見えたのだ。

 声をかけるべき?
 消えるまではここらへんに存在しててもおかしくない。
 私に会わない日もきっと、彷徨ってたりするんだ。
 だから、声をかけたら、喜んでくれるはず。

「颯馬くん……!」

 私は彼のあとを追いかけて、名前を呼んだ。

 前を歩く彼の足が止まる。
 ほら、立ち止まったってことはやっぱり颯馬くんだ。
 でも、なんで振り向かないんだろう?

「颯馬くん、何してるの?」

 私は彼の前に行って、尋ねた。
 前から見ても颯馬くんだった。
 いつも通りの彼と目が合う。

 でも……

「誰? 知らないんだけど」

 颯馬くんは冷たい口調で私に言った。

「え?」

 思わず、固まる。
 いま、なんて言ったの?
 知らない?

 固まっている私の横を颯馬くんが過ぎていく。

「ねえ、颯馬くん! 私のこと分からないの?」

 もう一度追い越して、私は颯馬くんの前に立った。

「知らないって。ついて来んな」

 怖い顔。
 その声はとても冷たかった。