図書館はもう閉まってしまっただろうし、いま行っても、もう颯馬くんはいないかもしれない。
 諦めてしまえば楽になれる。
 お姉ちゃんが消え、颯馬くんが消える。
 いつか、二人の記憶が私の中から薄れて……。

「……そんなの嫌だよ……!」

 私は深呼吸をして、また走りだした。

 図書館の建物が道路の向こうに見えてくる。

 ここからでも、もうクローズの看板が立ってるのが見える。
 でも、もしかしたらって……。

 そう思いながら走って、横断歩道を渡ろうとしたときだった。
 信号は赤になっていた。
 迫る白い車。

 すべてがスローモーションに見えた。
 私、死ぬのかもしれない、って。

「あぶない……!」

 後ろから、誰かに勢いよく手を引かれて、気が付けば私は誰かの腕の中にいた。
 車に轢かれそうになって、危機を感じて心臓がバクバクと暴れて、まだよく分からなくて……

「なにやってんだよ!」

 その声で我に返って、私は颯馬くんの腕の中にいるのだと理解した。
 ゆっくりと顔を上げると、そこには真剣に怒る、颯馬くんがいた。

「ごめんなさい……」

 そう言いながら、身体が震える。

「けど、颯馬くん、どうして……」

 消えてなかったの?

「約束しただろ、俺が絶対守るって。でも、走ってくんなよ、俺を悲しませんな」

 まだ震えている身体をぎゅっと抱きしめられた。
 バクバクと鳴っていた心臓が小さくドクンと鳴る。

「だって、今日、会えなかったら、消えてしまうと思ったから……」

 震える唇で、自分の言葉を伝える。
 諦めそうになったのに、ずるいよね。

「一日会えなかったからって、俺は消えたりしないよ。今日会えなくたって、俺がAちゃんの学校の前で待てばいいんだから。そんなに簡単に俺の約束から逃がしたりしないよ」

 至近距離から整った顔、真っ直ぐな瞳に見つめられて、胸が大きく鳴った。
 颯馬くんを好きかもしれない、って心が言った。