「お願い?」

 お姉ちゃんは私にお願いがあって戻ってきたってこと?

「うん。この小説を書ききって賞に出してほしい。これが未練なの。私がこの小説を書けない理由はお別れのときに言うから」

 お姉ちゃんはそう言いながら、私にノートを差し出した。

 お別れ、その言葉が私の胸をぎゅっと掴む。
 それに、私、お姉ちゃんのお願いを叶えられないかもしれない。

「お姉ちゃん、知ってるでしょ? 私は小四以来書いてないんだよ。そんな急に書けるわけないんだって」

 私はノートを受け取らなかった。ううん、受け取れなかった。
 身体を離して、少し距離を取る。
 
 お姉ちゃんに勝てないからと小四でやめた物書き、そこから三、四年くらい経ってる。
 いまさら私に小説なんて書けるわけがないよ。

「お願い、Aちゃんにしか頼めないの」

 ノートを持った手と何も持ってない手を合わせて、必死な顔でお願いされる。
 いつもお姉ちゃんは人に何かをお願いするとき、この仕草をするんだ。

「……分かった。やってみるけど、失敗しても文句言わないでね?」

 ここで断ったら、お姉ちゃんとは二度と会えないのかもしれない。
 そう思って、私はお姉ちゃんからのお願いを受けることにした。
 手に持った分厚いノートは少し重たい。

「ありがとう、Aちゃん。これから会うときの場所と日にちと時間は私が決めるから」

 彼は嬉しそうな顔をして私に言った。
 私たちにはきっと連絡手段がないんだ。
戻ってきたお姉ちゃんがスマホを持ってるとは思えないし、テレパシーもなさそうだし。

「次はいつ?」

 さっそく聞いてしまう。
 本当は家まで一緒に来てほしい。