「綺麗……」

 照れ臭くなって視線を手元に移す。

 まばゆい火花は大きくなくても綺麗で、楽しくて……。
 時間はすぐに過ぎていった。

「本物が見られるといいね」

 最後の線香花火に火を灯したとき、私はそう言ってしまった。
 消えてほしくないから、小説の完成を先延ばしにする。
 そんな汚い考えは持っていないけれど、出来ることなら、もっと一緒に居たい。

「どうかな……」

 颯馬くんは静かに答えた。横顔がとても綺麗。
 あまりに見つめすぎたのか、ふいに彼が私のほうを見た。

「Aちゃんって、また可愛くなったよな」

 ふっと笑う顔に心臓を持っていかれそうになった。

「気付いて……」

 思わず、小さな声で言ってしまう。
 私がおしゃれをしても、どうでもいいんだと思ってた。

「気付いてたよ。でも俺が素直に反応していいものなのかと思って」

 颯馬くん、また儚い笑みを浮かべてる。
 お姉ちゃんとしての気持ちと戦ってるのかもしれない。

「あ……」

 二人の線香花火がほぼ同時に地面に落ちた。
 線香花火もとても儚い。
 
「私が消えてしまったら、どうする?」

 光を失った線香花火を見つめながら私は小さくこぼした。