「それどうするの?」

 訝しげに颯馬くんを見てしまう。
 暑くなってきたからって、頭から水をかぶるバケツチャレンジとかしないよね?

「じゃじゃーん」

 私の視線を物ともせず、颯馬くんは後ろに隠し持っていた何かを前に出した。
 でも、暗くて、あまり見えなくて、私は近付いてそれを見た。

「花火? 季節的に早くない?」

 颯馬くんの手にあったものは家庭用花火セットだった。

 定期考査が終わって、まだ六月だ。
夏の花を咲かせるには早い。

 そう考えて、颯馬くんと出会ってから結構な時間が経ったことに気が付いた。
 
「Aちゃんと夏まで一緒にいられるか分からないから先に準備してた」

 その言葉に、また胸がぎゅっとなる。
 先を考えて行動してるのは颯馬くんだけだ。
 私は、この時間がずっと続くと信じてしまっている。

 颯馬くんがマッチで灯した一本の白いロウソク。
その光に照らされた彼を見ていると、幻なんじゃないかと思えてくる。

「はい」

 手持ち花火を手渡され、颯馬くんの手に導かれるようにロウソクの火に近づけた。
 幻なんかじゃない。

「わぁ……」

 はじける赤とオレンジ色の光。
バチバチと爆ぜ、その小さな火の花があまりに綺麗で、私の口から声がもれた。

颯馬くんも両手に花火を持って、それに着火する。
棒の先から緑の光が激しく吹き出して、喧嘩の強い彼が持っていると剣みたいに見えた。

「ふふっ」

 思わず、想像して笑ってしまう。
 あ、と思って視線を向けると、颯馬くんも笑って私を見ていた。