陽が沈んで、辺りがどんどん暗くなっていく。
 私の手を握った颯馬くんは無言で、人混みの中をどんどん進んだ。
 まぶしく光るネオン街を抜けて、寂れた商店街に入り込む。

 それから、颯馬くんは並んだシャッターの間の道を進んで、一つの廃れたビルの非常階段を上りはじめた。カンカンと音がする。
 
「ここ、入っていいの?」

 誰もいないかチラチラと周りを確認して、私は後ろから問いかけた。
 見た感じは誰もいないけど、ここはきっと立ち入り禁止の場所だ。

「土地開発のためとか言って、近いうち、ここ一帯はなくなるらしい。だから、もうここら辺には誰もいないんだ」

 階段を上がりながら、颯馬くんはそう答えた。
 止まることなく段差を何段も超えていく。

「ここに居る間だけはAちゃんと俺だけの世界になるってことだよ」

 どのくらい階段を上がったか、分からなくなった頃、私たちはそのビルの屋上に到着した。
 周りにはここより高い建物がなくて、夜空が大きく広がっていた。
 それに向こう側にはキラキラと光る街が見える。

 私と颯馬くん以外、みんなが消えた世界。

「真っ暗だね」

 私はぼそりと呟いた。
 この屋上はライトがないから暗い。

「暗いからいいんだ」

 颯馬くんがガタガタと何かをやってると思ったら、どこからか水の入ったバケツを持ってきた。