――颯馬くん、すごく怒ってる……!

 私は黙ってコクコクと頷いた。ううん、頷こうとしたけど、顔を固定されてるから出来なかった。

「なに? あいつと付き合おうとか思ってた? 俺じゃなくて、他の人でフラれるの試してみようとか?」

 眉間に皺を寄せて、不良の圧が凄まじい。

「えっと……」

 結局、全部お見通しでなんて答えようかと目が泳ぐ。
 そんな私を見て

「はぁ……、俺、すごい不安になったし、心配したんだけど?」

 颯馬くんは深く溜息を吐き、嘆いた。もう眉間に皺は寄ってないし、ちょっと悲しそうで私の心がきゅっとなる。それから

『彼氏に友達と遊びに行ってくるって言ってみ? 仲里さんに気があったら、すごい気にしてくれるよ?』

 突如、進藤さんの言葉を思い出して、顔がぶわわっと熱くなった。
 
 ――すごい気にしてくれてた……。

「恋って、好きってなんだろうと思って」
「そいつのことずっと考えてて、頭から離れなくなって、いつでも会いたいと思うのが好きってことだよ」

 小さくこぼした言葉に颯馬くんは即答した。
 真っ直ぐな視線から目が離せない。

 それって……。

「お姉ちゃんは自分勝手だよ」

 颯馬くんの存在に埋め尽くされて、お姉ちゃんのことが薄まりそうで、私はあえて「お姉ちゃん」と口にした。

「自分のお願いばかり押しつけて、私の心なんて全然考えてない。颯馬くんのことばっかり気になって、お姉ちゃんの存在がなくなってしまう気がする。忘れたくないのに、一ミリも」

 記憶が日々薄れて、きっと声も思い出せなくなるときが来る。
 この悲しさも忘れてしまうの?

「忘れられるなら、忘れてよ」

 その瞳にお姉ちゃんはいない。

「でも……!」

 忘れたくない。

「なら、俺と悪い青春とか体験してみる?」