「こいつ、俺のだから」

 固まった間宮くんの横を颯馬くんが私を抱えたまま通りすぎた。
 声が怒ってる。
 だから、私は間宮くんに何も言えなかった。

「歩けるから降ろして、私、重たいでしょ?」

 トントンと颯馬くんの肩を叩いて、降ろしてくれとお願いする。

「重くない。ちゃんと飯食ってんのかよ?」

 でも、颯馬くんは降ろしてくれなかった。

 たしかに、私はお姉ちゃんを失ってから、食欲も失った。
 それから、もっと可愛くなりたくてさらに食欲を抑えた。
 それでも、到底軽いとは言えないと思う。

「どうして、ここが分かったの?」

 諦めて、私は颯馬くんに尋ねた。

「全部見てたから」
「へ?」

 ぼそりとつぶやかれた言葉に疑問符が浮かぶ。
 全部見てた?

「だから、Aちゃんが学校終わって出てくるところから全部見てた」
「なっ」

 間宮くんとのギクシャクしたやりとりを全部見られていたってこと?

 思わぬ発言に身体がガチガチに固まった。

「なんで俺以外の男と一緒にいたの?」

 顔が見られないけど、絶対にこの声音は意地の悪い笑みを浮かべているときのやつだ。

「友達と遊ぶってちゃんと……言いました」

 全部がバレてそうで恥ずかしい。
 それに人通りが増えてきて、見られてて恥ずかしい。

 颯馬くんの足は駅裏の公園に向いていた。

「男だって言わなかったじゃん」
「だって聞かれなかったし」

 たしかに言わなかったけど、聞かれもしなかった。
 全然気にしてないんだと思ってた。

「なあ、俺と付き合ってるって分かってる?」

 もう見えているのに公園に入る前に、颯馬くんは私を降ろした。
 頬を包まれて、目が合うように顔を固定される。