こんな表情の颯馬くん、見たことない。

「俺の彼女になにしてんだよ」

 静かな声がじりじりと高校生たちに近付いていく。

「なんだよ、お前。中学生が生意気なんだよ!」

 先に手を出したのは高校生だった。
 拳を颯馬くんの顔面めがけて勢いよく繰り出す。

「遅いな」

 それを軽々よけて、颯馬くんは高校生の腹部に蹴りを一つお見舞いした。

「うぐっ!」

 ドゴっという音と共に高校生がそこに転がる。

「こいつやべぇって!」

 一番最初に壁にぶつけられた高校生が逃げるように走り出した。

「うわあ!」

 次いで、私を掴んでいた高校生。そして「置いていかないでくれ!」と情けないことを言いながら、さっき地面に転がった高校生が逃げていった。

 お姉ちゃんが……、ううん、颯馬くんがこんなに強いなんて知らなかった。
 お姉ちゃんの面影なんて、一つもない。

「Aちゃん!」

 高校生が消えたのを確認して、颯馬くんは私に駆け寄ってきた。

「颯馬くん……」

 彼の顔を見て、私はそこにへたり込んでしまった。
 とても怖かった。

「大丈夫か? とりあえず、落ち着けるところまで連れていく」
「ひゃっ」

 ふわっと身体が浮いて、声がもれる。
 私のもとへ来た瞬間、颯馬くんは私のことをお姫様抱っこしたのだ。

「仲里さん! 大丈夫!?」

 少し遅れて路地に入ってきた間宮くんと目が合う。
 私を心配してこっちまで来てくれたんだ?

 でも、なんだか固まってる。
 颯馬くんを見てる?