「好きなもの?」

 返答に困ってしまった。昔なら読書とか物語を書くこと、とか言えたけど、いまは趣味とかもないし、好きと言えるものがない。勉強とか言ったら気味悪がられるかな?

「可愛いもの、とかかな」

 進藤さんたちとメイク道具を見に行って、そこにあった可愛いものはすべて心がときめいたし、きっと私は好きなんだと思う。

 だから、とりあえず、それを答えた。

「間宮くんは?」
「僕はサッカーだな」

 分かってた。そう答えるって。
 つまり、お互いに生活の中にそんなに楽しみにしていることがないってこと。

「仲里さんはさ、なんで僕と遊んでくれようと思ったの?」
「間宮くんのことを知りたかったから、かな。付き合う、じゃなくてごめんね」

 本当は好きになってフってくれる人を探してる、なんて答えられない。
 颯馬くんの代わりを探してるなんて、そんなこと……。

「知りたいことあったら聞いてくれていいよ?」

 間宮くんは嬉しそうに笑った。
 心が苦しい。
 せっかく私のことを好きになってくれたのに、申し訳ない。

「兄弟はいる?」

 そう聞いたとき、彼はハッとしたような顔をした。
 あ……、と思う。
 そっか、クラスのみんなは私のお姉ちゃんが死んだことを知ってるんだ。
 正直に答えていいのか、って悩ませてしまった。

「ごめん、やっぱりいまのなし」

 テーブルに置かれたアイスココアを一口飲んで、私は「美味しい」と静かに笑った。